自分が何歳まで生きられるかどうかは分からないし、あと何年くらいチーズマーケットを営業できるかも分かりません。でも、「長生きすることは、とても素敵な事だ。」と思うようになりました。また、この世の中で自分や他人の命を大事にしたいと強く思うようになりました。元気でも元気じゃなくても長生きはそれだけで尊いことだと私は考えています。それは一日でも長ければ、その人の人生の最長記録だからです。私という生き物が一体何十年生きられるのか？体調を整えて挑戦したいと思います。

この「長生きする！」という事を強く意識するようになったのは、今から３年ほど前からです。そして、出来ることなら、自分の好きなチーズマーケットの仕事も続けられれば、この上ない喜びです。そこで私は８０歳までチーズマーケットを続け、毎日札幌の飲食店さんに運転して配達するという目標を立てました。はるか先の目標を立てたお陰で、自分の心ががらりと変わりました。そして、その多くは以前の私よりもずっと進歩した考え方になったと感じています。今回のお話は、はるか遠い先の目標を立てた事で、自分自身がどの様に変化したかについての話です。今、出て来た答えの一つは、「８０歳まで働くと決めたら、ゆったりと構えて生きられるように気持ちが変わった。中身ある老後にするには、お手本になる年上の人を早めに見定めて、彼らを参考にしながら自分独自の目標を立てて、そこに辿り着くように準備して行けばいい。」というものです。

まず、私がどうして８０歳まで現役で働こうと思うようになったかというきっかけについてです。３年ほど前から美奈子店長と一緒に沖縄や高知、大分、熊本、愛媛、山口、和歌山など日本各地に行って、６０歳代７０歳代８０歳代のいろいろな農家の人達と出会えた事です。どの方もみなさんとても元気で夫婦仲が良く、生き生きと働らいて生活していました。特に沖縄県では、８０歳以上の人達がとても元気です。道の駅などに自分で育てた野菜を軽トラックを運転して納品したりする姿を見かけます。とてもびっくりしました。今までの私の常識が大きく揺さぶられました。そして、その日焼けした顔で元気に動く姿が、目に焼き付きました。彼らは生活する事と言うか、毎日生きている事が楽しそうに見えました。自由に出来るお金は都会の人よりも少ないかもしれませんが、都会の人以上に安全で高品質な食品を毎日の様に口に出来る様です。自分達で美味しい野菜や果物を育てたり、美味しい食べ物を近所の人からもらったりあげたりという交流、自分で味噌やしょうゆを作ったり、山に行ってはちみつを採取したり、川に網を投げて魚を取ったり、それぞれの方が思い思いに自然に働きかけて得られる糧を元にして生活を楽しんでいるのです。とても憧れました。

人口密度の高い都会で暮らす私達には真似出来ない「自分で口にする物を生産する営み」がある！と感じました。彼らの生活を見て「自給自足」という四文字熟語の意味が実感できました。何よりも田舎で暮らす彼らは、他者から時間や行動の制約といった影響を受けにくい環境で暮らしているのが素敵だと思いました。ストレスが少ない生活をすることが大事だとも感じました。彼らの様に元気で長生きをする為には、都会にいても田舎にいてもずっと体（足腰や手足や指先など）を動かして働き続けることが重要だと気付いたのです。だから、「長生きと労働は１セットだ。」という答えが出たのです。そして、ついに私は生涯現役で仕事をしたくなったのです。・・・健康で長生きができるように。＾＾）

次に、８０歳まで働くと決めると、自分の中に新しい物の考え方が生まれました。それは、仕事の面でも何事においても、１．「余り気にしない。」２．「無理をしない。」３．「焦らずに待てる。」という様に気持ちが変わりました。「出来るだけ速く・いっぱい・長く。」を目指して毎日を生きていた若い頃なら、決して思えなかった事ばかりです。あの頃は、能率・効率重視しか頭にありませんでした。＾＾）私もいい歳を取ったということでしょうか？　

１．の一例を紹介しますと、仕事での日々の売り上げ額が気にならなくなりました。私と美奈子店長の二人が元気なら、この先まだ３３年間も営業が続けられるのだから、日々の金額の上下に一喜一憂するなんて無意味だと思えてきました。何故なら売上額はまるで為替や株価と同じで波があるものだし、それに何に対しても言えることですが、きっと５０年間という長いスパンで後で振り返れば、多少の上がり下がりなんて大した違いはないし、いちいち問題にはならない。と思えるようになりました。年々売り上げが下がるのは問題ですが、ご飯が食べられる程度に仕事があれば、とりあえずは気になることは何も無いと思えるようになりました。また、別の例を挙げるなら、自分が歳を取る事も怖くなくなりました。老化というマイナス面を補うに余りある知識と経験、それに豊かな心が年々備わってくるからです。勉強する姿勢を持ち続ける事、と同時にいろいろな世代の人達と日々交わる事を意識すれば、そうした人付き合いや仕事・暮らしの中から得られる知恵やヒントは、今後の自分の人生に大いに役に立つと自分で分かったからです。だからもう歳を取ることが楽しみで楽しみで仕方がない位いに気持ちが１８０度変わったのです。

２．の例を挙げると、私の場合は車の運転の仕方です。今までは、とても危険なドライバーでした。でも今では交通事故は怖いとしみじみ思います。自分が死ぬのはもちろんですが、人様の命を奪ったり、怪我をさせる事への恐怖が強くなりました。事故を起こしたら８０歳までチーズマーケットを続けられなくなります。だから、目先のちょとっしたお得よりも、平和に生き続けることを第一優先に考えるように変わりました。これも８０歳まで仕事をやるという目標を立てたお陰だと私は考えています。約束の時間に間に合わないからと、無理をしてスピードを上げるよりも、遅刻して素直に謝ることを選びます。また、そうならない様に余裕を持って仕事をすることを心掛ける様になりました。

３．の例を挙げると、もう焦らなくなりました。ランジス市場で注文したモンドールの入荷が突然無くなっても、慌てなくなりました。８０歳まで仕事をしていたら、毎年毎年今回と同じように想定外の事が起こり得ることを考えると、大した問題じゃないと焦らなくなったのです。そういう気持ちはお客さんにも伝わります。今の私の周りには、こういう事を受け止められるお客さんが多い気がします。「私も私のお客さん（飲食店さん達）もお互いに最善を尽くして働く。それでも、第三者が原因で引き起こる諸問題を受け入れられる心の余裕がある。」こんな価値観でつながっている間柄だから、お互いにするりと気持ちを入れ替えて、また新たな目標に向かって働けるし生きていける。ということだと思います。問題が起こった場所でいつまでも立ち止まり、ブツブツ言っていないということでしょうか。こうした気持ちの変化で私は以前よりも笑うことが増えました。さらにいいことに、ニコニコしていると、人が集まってくるのです。だから、以前よりもさらに幸せを感じるようになりました。私の様に都会で暮らしていても、いろいろな人と交流が持ていると、美味しいものを分け合うことが出来ます。そうです、田舎に住む農家の彼らの様に。チーズマーケットの店頭に来られるお客さんの中には、私達にいろいろな美味しいものを持ってきてくれます。自分で作ったパンやお菓子、野菜、自分で採って来た山菜やお土産など。私達もいろいろなものをあげています。最近では、私の作るぶどうや糠漬けの漬け物も喜ばれています。そうなんです、一人じゃ駄目なんです。都会に暮らす人は私達を含めて、沖縄の人達の様に大家族ではないけれど、こうしたいろいろな世代の人との交流があれば、暮らしが豊かになる。と私は気付きました。全ては彼らの暮らしがヒントでした。

この様に若いうちから自分の老後に大まかでも何か目標を立てることは、自分の行き方の方向性を決めるのに役立ちます。何の目標も立てないままに何となく一日を生きるのとは、全く違う人生になるんじゃないかと私は気が付きました。私が立てた目標、「元気で楽しく長生きする。」を本当に実現させる為には、参考になる先輩を探すことです。そして、彼らの生き様を観察することでヒントが見えてきます。３０年４０年先の自分の姿を思い浮かべることで、そこから逆算して一体自分は、「今」をどの様に生きれば良いのかを考えるように変わります。目標とする地点を意識すれば、登山の様に何をどうすべきかがという道のりが見えてくるのです。私の場合、彼らをお手本にすることで、自分自身を見つめ直すことが出来ました。そうすると、次に一体どうすれば彼らの様に元気に人生を全う出来るかという方法が自ず見えてくる様になるのです。

例えば成人病にならないように食事の摂り方、質と量に気を付ける様に変わりました。また、自分で食べるものは自分で料理するのもその一つです。作れない野菜や果物は信頼できる人から買うこともその一つです。チーズマーケットの商品は私達が食べたい物を選んでいます。お客さん（私は美味しいものを分け合う「仲間」だと思っています。）に買い易い値段を提供すれば、どの商品も回転が良くなり、いつでもいい状態のものを提供できます。そして、そのお陰で私達は彼らと共に食べ続けることが出来ます。また、健康維持の為には、適度な運動をする様に考えが変わりました。仕事が忙しいのでスポーツジムに行く時間は私にはありません。ならば、配達の時にエレベーターを使わずに階段を利用したりと工夫しています。近所の買い物などもなるべく歩くようにしています。将来の理想（元気で長生き）を自分で意識することで、毎日の生活で何を行うべきかその一つ一つの行動が具体化されるのです。以前の私には、はっきりとした老後の理想や目標がありませんでした。だから、一朝一夕には出来ない健康維持を実現することは、不可能でした。一例を挙げれば、私は長年いぼ痔や切れ痔に悩まされてきました。手術で何度か切ったりもしましたが、完治しませんでした。でも、２年ほど前から自分で野菜を育て、料理を作り、食べ物の種類と質を大幅に入れ替えたところ、今ではもうすっかり治りました。多くの病気の原因は、食事や生活習慣の悪さだったと改めて実感しました。

若い頃から今までにあった心の病気や体の病気がなくなっていくのが良く分かります。このまま続けていけば、ひょっとして本当に８０歳までチーズマーケットをやれそうな気がしてきました。＾＾）

自分の内面を見つめ直せるきっかけとなった日本各地に住む人生の目標になる先輩達と出会えたことが大きかったです。そして彼らのお陰で、はっきりとした自分の理想の老後を意識できる様になりました。このことがきっかけで私は心身ともに健康で焦らず、慌てず、気にせず、飾らず、ゆったりとした心持ちで日々を過ごせるようになったのです。良く働き、良く笑い、良く食べて、良く寝る。こんな素敵な日が一日でも長く続きますように。＾＾）（おわり）

８０歳まで現役で働くと決めたら、ゆったりと構えられるように自分が変わった。