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カマンベール・ド・ノルマンディーのAOCの意味



今回、フランスのノルマンディー地方でいろいろな規模のチーズ工場を取材できて、チーズをはじめ食品について考えさせられる出来事がありました。今回のお話は、フランスのチーズに付いているAOC規格の意味についてです。

ここまでやるか?という感じのマシーンで、カードをすくいます。 すくったカードをカマンベールの型枠に入れます。 入れたら型枠から離れます。

まずは、上の3枚の写真をご覧ください。これはノルマンディー地方のとある大規模カマンベールチーズ工場にあった展示の写真の一部で製造工程の様子を示しています。この説明分によりますと、カマンベール・ド・ノルマンディーAOCと呼べるチーズは、一つ一つ”お玉”(ルーシュ)でカードを型枠に入れています。そしてそれが高品質なカマンベールチーズにつながるのです。・・・・何てことを言っています。
 
ところが、どうでしょうか? 写真のとおり、この大手のカマンベール工場では、機械が一度に20個のお玉を動かして、カードをすくい、そのままポイッとカマンベールの型枠に入れているではありませんか。たったこれだけなんです。
 
つまり、カマンベール・ド・ノルマンディーというチーズに関してAOCが規定していることは、この程度なのです。AOCの規定では、カマンベールを作る時に全てのカードをお玉(ルーシュ)ですくい、それを型枠に入れることを求めているだけで、そのお玉を人間の手でやっても、機械でやらせても、どちらでも構わないということなのです。つまりその結果できたチーズが、AOCとして認められたからといって、特別なチーズでもないし、そのチーズが特別おいしいわけでもないのです。これはワインにも言えることです。AOCの表示が特に無いワインでも、そうした割高なAOCワインよりも良質でおいしいワインはたくさん地元フランスには存在しているのです。
 
しかし、こうした大手の工場ではこの機械化したことを、「チーズ製造の革命だ。」とか何とか言って自慢しています。確かにある程度の機械化は賛成です。でも、その機械化は、限られた部分にするべきだと思います。例えばチーズ作りに欠かせないいろいろな器具をその使用前と使用後に大型自動洗浄器で洗えば、手で洗うよりも清潔に早く洗浄が可能です。チーズマーケットで人気のブーゴーさんのやぎのチーズ工場でも、今年から大型洗浄器を導入して本当に良かったとおっしゃっていました。つまり機械化は、チーズの製造を陰で支える物だけで十分だと思うのです。毎日変わる温度やミルクの成分。そうした細かい条件の変化に対応するには、機械では無理だと思います。お天気やミルクの味を見ながら、長年の経験と勘で如何においしいチーズを作るタイミングを見極めるのか?そうした処に職人達の存在価値があると思うのです。製造マニュアルを作り、分量や時間を機械にインプットして、あとは誰が操作しても自動的にカマンベールが出来てしまう。でもそれは本来のチーズ作りから生まれたカマンベールとは、全く別な世界の、全く別のチーズなのではないかと私達は思います。なぜなら、こうした機械化が進んだ大手企業のカマンベールは、AOCのカマンベールでも普通のカマンベールでも、美味しくないからです。食べ物がおいしくなくて、何の魅力があるのでしょうか?

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一方、私達チーズマーケットが輸入しているメーカーの工場の様子は上の写真のとおりです。窓が多くあり、自然の光が多く取り入れられて明るく、換気もよくされている衛生的な工場です。そんな中で、職人さんたちが誇りを持ってそれぞれが黙々とカマンベール・ド・ノルマンディーAOCを作っています。どうして誇りを持てるのかと申しますと、その理由にはいろいろありますが、その一つが次のようなシステムが大きく寄与しています。それは、どの職人が、どんな品質のカマンベールを作ったのかが、後で結果として皆が分かるようになっている事です。毎日の作業から出来たカマンベールの全てについてAOCの規定を満たしているかをチェックします。例えばそれはチーズの重さであったり、チーズの直径や高さであったり、形が整っているかなどです。誰が作ったのかが一目で分かるようにそれぞれの棚に担当者の番号が書かれています。検査の結果は、一覧表にまとめられ全員に告知されます。当然給料にも影響があります。それゆえ、どの職人もやる気が出ますし、自分の作ったものに誇りと責任を感じることが出来るのです。
しかし、大手企業の機械化されたチーズ工場ですと、ベルトコンベアーで流れるような製造になりがちで、働く人間は機械の一部品かのような決まった作業をこなすだけで、個性や実力を発揮することは出来なくなります。余りにも大量に次々と作るために、これが自分が作ったカマンベールだという認識が生まれてきません。しかし、この伝統的な製法ですと、より高品質なチーズを作ろうという気持ちが生まれてきます。生身の人間が食べるチーズなのに、工業用ロボットが製造のほとんどを占め、自然の光が入らない蛍光灯だけの薄明るい工場で、職人というよりもほんの数人の作業員が、チーズの製造工程を見守るだけの工場。そんな工場で、どうして本来のおいしいカマンベールができるというのでしょうか? 元々カマンベールは、人間が手間と時間をかけて、愛情を込めて作ってきたものです。そんなカマンベールと先の例の大手工場製のカマンベールが同じ味ではあり得ないのです。

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残念ながら?、先の大手工場で作られたカマンベール・ド・ノルマンディーは、広く日本各地にも出回っています。「実態を知らないからこそ食べられるチーズ」だと私達は思います。以前からどうしてここのカマンベールは美味しくないんだろうと疑問がありましたが、今回の取材でその理由が良く分かりました。こうしたことは、実際にいろいろなチーズ工場をフランスまで来て、見るようになってから分かりました。でも、一般の日本人消費者が同じことをするのは時間的にも無理だと思います。それゆえ、私達はこれからもいろいろなチーズ工場の取材を続けて、確かな情報を積極的に公開して行きたいと思います。今年の2月に取材に行った問題あるモンドールAOCの工場の時も同じでした。・・・・「チーズのAOC認証制度は、そのチーズが美味しいという保障はしていない。」・・・・これが結論です。では、一般の人がどうやっておいしいチーズを見つけたら良いのでしょうか?・・・・それは、いろいろな店員と話をしたりして、店主の考え方を知ることです。そして信頼できる店を探していくことだと思います。簡単には見つからないかもしれません。つまり、店や工場の大きさで判断するのではなく、「いい物を作りたい、いい物を提供したいと思っている人間を見つけること。」これしかありません。私達は、これからもフランス各地を回り、チーズの作り手に実際に会ってお話をする中から、信頼できる人たちを探し、彼らのチーズを輸入しようと思います。


カマンベール・ド・ノルマンディーのAOCの意味