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動物(牛)に苦痛を与えておいて、「美味しい」なんて無い。2008年5月



5月10日(土)(2008)の夕方、トレント市から東方の山岳地域のValflorianaにあるアグリツーリズモに着きました。ここでは、オーガニックで牛や豚を育てて、チーズや肉製品を作って、宿泊客などに出しています。
 
山間の小さな土地で自然を相手に有機農法をしていることは、とても素晴らしいと思いました。しかし、どうも気になることがあったのです。それは、牛の飼育方法です。

Grigio Alpine という品種の牛です。ブラウンスイス種と同じく口の周りが白い毛になっていて、よりかわいらしく見えます。

上の写真の様に、ここでは畜舎内で15頭ほどの雌牛を飼育しています。でも、どの牛も首にロープが付いていて自由に動き回ることが出来ません。その場で「立つ」か「座る」の2通りしか出来ないのです。眠っていても寝返りが打てないじゃないかと心配になりました。
 
それにもう一つ、気になったのが牛の尻尾です。下の写真の様に尻尾にはこれまたロープが付いているのです。どうしてこんな事をここの人はしているのでしょうか? 飼育する人間が、同じ面積でなるべく多くの牛を飼育して、たくさんのミルクを得たいと考えたり、尻尾を固定することで、搾乳時により短時間に作業を済ませようという思惑から出ているのだと思います。

日本の酪農業界でも尻尾を切ったりすることが多いようです。それでもそれが間違いだったと感じて止める人たちも少しずつ出てきています。

一方、下の写真は、フランシュ・コンテ地方に行った時に訪問した牛舎の様子です。私たちが飼い主のおじさんと牛舎に入ると、牛達はみな興味を示して、ぞろぞろと歩いてこちらにやって来ます。この時は、この事を不思議に思いませんでしたが、先の飼育方法と比べると明らかに違います。

モンべリアール種の牛です。コンテやモンドールになる牛乳を出してくれます。

ここの牛には、首や尻尾にロープが付いていないのです。立ったり座ったり歩いたり、えさを食べに行ったり、搾乳場に並んで順番を待ったり・・・。正にそれぞれの牛が自分のペースで生活出来る環境が整っているのでした。同じフランシュ・コンテ地方でヴァシュランフェルミエを作っているプーレさんもここと同じ様な畜舎で牛が自由に畜舎内を歩けるようにしていました。

外には雪がたくさん積もっている2月の寒い時期でしたが、元気そうな牛でした。

さて、先のアグリーツーリズモのチーズについてです。それらは、「おいしい!」と胸躍るチーズではありませんでした。(プーレさんのチーズはどれも食べる時わくわくします。)食べる前にこの現場を見たからそう感じたのではありません。美味しくない原因の一つがこの悪い飼育法なのかどうかは分かりませんが、牛にとって良い環境では無いことは明らかです。こんな事をしてまで、たくさんの乳を得たいとか、楽して作業をしたいなんて情け無いと思います。少なくとも私たちはこういう環境で牛を飼っているのを知った以上、こういう人のチーズは食べたくも売りたくもありません。オーガニックで牛を育てることは素晴らしいです。でも、その前に彼らはもっと考えるべき事、やるべき事があると私は思いました。
 
多くの消費者は、とかく「オーガニック」とか「金賞受賞」とか「○△ブランド」といった事を鵜呑みにしがちですが、やっぱり酪農製品でもっとも大事なことは、動物を健康的に育てて得られた食品なのかどうかで判断すべきだと私は思います。これまで多くの酪農産地を見てきましたが、今言える事は、「酪農の理想は、放牧を中心とした飼育法でその大地に生育する牧草を餌にして育てること。」だと思います。厳しい気候条件で一年中放牧ができないのであれば、少なくとも広い畜舎を設けて、牛がいつでも運動できる環境を整備してやらないと健康的に育てられないと思います。
 
紙パックの牛乳には、「大自然」とか「新鮮」とか「牧場で搾りました。」なんて文字ばかりが印刷されて、言葉だけが躍っています。そうした言葉を信じて買っていては、今回の様な現状を知ることは不可能です。でも、こうした生産現場の実情を多くの消費者は、知るべきだと思います。こういうことに消費者が常に厳しい目を向けることは、こうした虐待にも似た事を止めさせる力になると思います。


動物(牛)に苦痛を与えておいて、「美味しい」なんて無い。2008年5月