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全部飲めなかったやぎのミルク(オーストラリアにて)



私が初めて飲んだやぎのミルクは、あの美味しいやぎのチーズを作っている南フランスのブーゴーさんのやぎのミルクだったので、今回のことは少しショックでした。といいますのもこの1月(2006年)にオーストラリアのあるスーパーで買った下の写真のやぎのミルクの味が、ブーゴーさんのミルクとは全く違ったものだったからです。それは、まるで獣(けもの)の様な香りとでもいいますか、細かくした脱脂綿がミルクに入っているかのように、喉に引っかかるような味だったのです。質の悪いやぎのチーズを食べた時と同じく不快な味でした。

ブーゴーさんのやぎのチーズはおいしいですが、このミルクは飲めませんでした。

このやぎのミルクを初めて飲んだ消費者の多くは、きっと「やぎのミルクは牛乳と違って美味しくない。」と記憶に残ると思います。

でも、私は違います。「これは、たまたま美味しくないやぎのミルクであって、臭みの少ないやぎのミルクもあります。」とはっきり云えます。しかし、日本人でブーゴーさんのようなやぎのミルクを飲んだことがある人はほとんどいないので、こうしたミルクがスーパーで広く出回り、一般の消費者はそれを飲んだら最後、「やぎのミルクは飲めない味だ。」と思うと思います。

 

同じことが、やぎのチーズでも云えます。いくら私達がどんなに注意して管理をしたとしても、輸入した時から既においしくないやぎのチーズがフランス産でも数多く存在します。そうしたチーズは大規模な工場で生産されることが多く、やはりこのおいしくないやぎのミルクのように、広くフランスや日本でも流通しているのです。ブーゴーさんのやぎのチーズを食べたことのある日本の消費者は、極々わずかな人数です。ほぼ100%に近い日本の消費者は、こうした品質の悪いやぎのチーズを食べることになり、やぎのミルク同様に、「やぎのチーズはえぐくて、あるいは臭くて美味しくない。」と思うのです。チーズが好きな私でも、以前に輸入していた先の大量生産のやぎのチーズはもう食べたいと思いません。本来のやぎのチーズのおいしさをブーゴーさんから教わったので、こうしたチーズはがっかりすることが予想されるので食べないのです。

 

では、なぜ今回のやぎのミルクとブーゴーさんのやぎのミルクで味がこうも違うのでしょうか?答えを一言で言い表すことは出来ませんが、やはりやぎが食べている餌の質が大きい理由だと思います。またどのような住環境でやぎが育っているのかも大事だと思います。また、実際にやぎに触れ合い育てている人のやぎにかける愛情の深さも大きいと思います。それは例えばこんなことに現れます。ブーゴーさんのやぎ達は通常年中搾乳をしている牧場とは違い、一年のうち2ヶ月間(8月と9月)は搾乳をしないようにしています。そうすることでやぎを休ませられるので、寿命も長くなるといいます。搾れるだけミルクを搾り、余り出なくなったら別のやぎに換える。こうした使い捨てのようなことが現実に行なわれているそうです。しかし食べ物の仕事で、利益や効率ばかりを追求してしまえば、真っ先に失うものは、本来持っているはずの味だと思います。今回のことからも、おいしいのもを確実に手に入れるためには、「誰が作っているか。」や「誰がどれ位責任を持って売っているか。」などといった、その食品に関係する者の姿勢を見極めることが近道だと思いました。「自分がおいしいと思うものを作っている人。」を探したり、「自分が惚れているものばかりを売っている人」を探してそこから買う事ができれば、今回のような悲しい食品を手にすることは無くなると思います。フランスの食の高品質を支えているのは、生産者と消費者が出会う場がどの町にもあること。そうです、マルシェ(朝市)です。日本でも量販店を通さないマルシェのような販売方法を確立し、また心ある個人事業者の小売店が認められるような国になって欲しいと思います。道路や建物を作ることばかりに税金を使わずに、日本各地にある特産物を地元の人が安く買える様なシステムの確立にお金と頭を使って欲しいと思いました。チーズマーケットが出来ることはまことに小さいですが、これからもそれぞれのチーズが持つ本来のおいしさを直接伝えていく店にしていきたいと思います。



全部飲めなかったやぎのミルク(オーストラリアにて)