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日本で食べる牛肉などの肉が美味しくない一つの理由



これまでチーズマーケットでは、本当においしいヨーロッパのチーズの輸入をするために、各地の生産者を年に4、5回訪問する取り組みを行なってきました。延べ20回以上イタリアやフランス、ドイツ、オランダ、スペインなどヨーロッパ各地を訪れました。各地で頂く食事の時に、いつも気になっていることがありました。それは、「ヨーロッパで食べる肉のほとんどが、日本で食べる肉よりも段違いにおいしい。」という事実でした。料理の方法なら日本のコックさんも負けていません。しかし、肉自体が違うようです。特に牛肉でその違いを強く感じました。塩と胡椒の味付けなのに、どうしてイタリアやフランスなどのヨーロッパの国々の牛肉は美味しいのでしょうか?こちらのおいしい肉の味を知ってからは、何か虚しくなり日本では肉を以前より食べなくなってしまいました。


ミラノ(イタリア)郊外にある露天の市です。週に2、3回市が立ちます。

先日、ある雑誌を見ていたところ、そのヒントになるような記事がありました。三重県津市にあります精肉店経営の社長さんのお話ですがとても参考になりましたので、今回はこれをご紹介したいと思います。その店では一般的な仕入れ方法と違い、牛を生きたまま一頭で仕入れています。そして衛生検査と屠殺をした後でその全てを自社内の職人さん達が解体します。その後3日から6日後には店頭販売が出来るそうです。ところが、日本の一般的な肉の流通経路ですと、この店のようには出来ないようで、約2週間もかかるそうです。中には1ヶ月もかかった後でようやく店頭に並ぶそうです。この3日と2週間という日数の違いは 肉質に大きな違いが出るそうです。一度でも食べてこの本来のおいしい肉の味を覚えた多くのお客様が、この店で肉を買われていくそうです。


つまり、こうした心ある精肉店がない日本各地の消費者は、一般的に流通した先の例のかなり時間が経った牛肉をスーパーなどで買って食べているのです。(私もそうです。)だから美味しくないのだそうです。つきたての餅と真空パックの餅では味が全然違うように、精肉でも同じことが云える様です。


この話を聞いて、やっぱりそうなんだという思いがありました。それはフランスやイタリアなどのマルシェ(市場)で精肉店を見て回った時の様子と日本のスーパーなどの店で垣間見える時の店員さんの肉のさばく様子が違うなぁと感じていたからでした。フランスなどでは、店員さんが大きな牛肉の塊からいろいろな部位をいろいろな包丁を使ってその場で切り分ける光景をよく目にしました。カット台が血で真っ赤になる中で肉と格闘している様子が印象的でした。一方、日本ではボックスミートといいまして、予め大手食肉加工業者さんが肉屋さんに代わって肉の全てを解体し、”部位ごとに大きな真空パックにしたもの”に加工します。それを肉屋さんやスーパーに運んで納品するシステムなのです。肉屋さんは店頭でそのパックを開けて、肉を薄くスライスしたり角切りにしたするだけで売れるのです。フランスのマルシェでは、鶏肉は頭も鳥肌の皮も付いたままで売られています。ウサギの肉も顔(毛皮はないですが)が付いています。日本では肉以外の部分、例えば、血がついた骨や皮、すじ、丸ごとの心臓や舌、いろいろな内臓など、たった今まで生きていた証になるような生々しい部位を店頭ではお目にかかれません。でも、フランスなどではこうした光景を店頭で頻繁に見かけたのでした。日本ではそうした加工処理の全ては、一般消費者が目にすることが出来ない大規模食肉加工場で行なっているのです。私達はそうした真空パックにされた肉を、しかもパックされてから相当な日数が経ったような肉を食べているようなのです。


マラガ(スペイン)の市内にある常設市場で生ハムを売る専門店にて。

どうしてこんなにも店頭に並ぶまでに時間がかかるのでしょうか?それは日本では、屠殺後に同じ牛から取れる内臓と食肉であっても、異なる組合を介して別々に流通させるなど、いろいろな問題があるようです。別々の加工場に移され、処理されるので鮮度も質も下がります。こうして時間ばかりが過ぎ去り、いろいろな会社を経ることでコストも上がるようです。そして何よりも肉をさばく手間をかけたがらないスーパーや精肉店などの小売業者のニーズがそうさせているのだと思います。私達は7年ぐらい前から伝統あるフランス産の様々なチーズの味を知ってからは、もう今まで食べてきたチーズは何だったのか?と随分と驚いて、日本のチーズを口にすることは無くなりました。そして、日本で売られているチーズ(国産、輸入チーズに限らず)の問題点が見えてきました。要するに売り手が手間ひまを掛けずに楽をして消費者に売ろうとしているので、この肉のように味が二の次になったチーズになってしまっていたのでした。このように流通に問題のある肉ばかりを食べていては、いつまでたっても日本人は肉の本来の風味を知ることが出来ないのではないかと感じました。「消費期限が長い」、「簡単にさばける」、「ごみが出ない」などなどの経営上便利なことばかりを優先して、大量に流通させていくことの方が、肉の味よりも大事なことだと思っているようです。日本では「美味しく肉を食べよう?」と焼肉のたれが実にたくさん売られていますが、ひょっとしてこれは別の意味があるのかも知れません。肉本来の味がしない・美味しくないという事実を知っているから、それを少しでも誤魔化そうと、これほどたくさんのたれや照り焼きのたれが売られているのかも知れません。たれの味しかしない位、とても濃くて高血圧になっちゃうよと思うようなたれをたっぷりと掛けて、肉のまずさを弱めているのでしょうか? そして大手食品会社製の人工的に調合された同じ味付けのたれを使い、今日も日本中の消費者が食べているかと思うと、何だかとても気味が悪いです。フランスでは新鮮でおいしい肉があるので味付けは、塩と胡椒で十分おいしいです。肉にうまみがあるので、たれなどは必要ありません。香り付けにローズマリーなどのハーブや一欠けらのにんにくがあれば、もうそれだけで肉の味が引き立ちおいしいです。ヨーロッパに行かれる機会がありましたら、ぜひ各地のマルシェに立ち寄り、キッチン付きホテルでご自身で肉を焼いて召し上がられることをお勧めします。これまで肉が嫌いだった方も、それは自分のせいではなくて、実は食べている肉自体が美味しくないのが原因かも知れません。日本だけでしか通用しないものに囚われないで広く世界を見つめ、食においてもグローバルスタンダードとは一体何なのかを消費者一人一人が常に考えることで、こうした日本社会の問題点も少しは変わって良くなっていくのではないでしょうか? その為には、消費者が本当においしいものに出会い、ゆっくりと味あうことが、そうした力を身に付けていく最良な方法になると思いました。



日本で食べる牛肉などの肉が美味しくない一つの理由